※ 作品の登場人物や内容に言及があります。ネタバレを含みます。原作漫画を未読の方は本記事を読まないことをお勧めします。
※ 単なる個人による感想です。
『星になる日』(鈴木ジュリエッタ、白泉社)は、鈴木ジュリエッタ先生の初期作品の短編集。今回は、その中に収録されている『椿檻』という作品の感想です。
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山の主様は毎日寂しくて寂しくて
ある日綺麗な声で鳴く
一羽の小鳥をお飼いになりました
その小鳥の奏でる調べは美しく
主様のお心は癒されるのみでありました
山で迷った千賀子は異世界との狭間へ迷い込む。妖怪に追われて辿り着いた家には巴衛という少年がいた・・・。
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一見最後はホラーです。日本の昔話のような感じです。
しかし、時間の止まった閉ざされた空間で、自らの出自も忘れていた男の子が、女の子と出会い、自らの生を選び取る。その過程は、自分を取り戻すことでもあるのです。
だから、バットエンドではないのです。
いわば、これもまた、モラトリアムからの脱却とアイデンティティの確立と言ってもよいでしょう。
でも、物語の顛末としては、やはり、ちょっと切ないですね。
女の子は男の子と「一緒に生きていく」ことを考えて屋敷を出た。
でも、男の子の方は、外に出ても、もう飛べないことを知っていたから。
「一緒に行きたい」とは望んでも、「一緒に生きたい」ではなかった。
それは叶わぬ願いだったから。
そこがとても切ないのです。
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『神様はじめました』の巴衛とは別人ですが、字は全く同じですね。
作品の雰囲気もどことなく似ていますし、根底に流れるテーマも近いです。『神様はじめました』の原点と言ってもよいでしょう。
おそらく、この作品の雰囲気、モチーフ、登場人物の抱えるテーマに、「心の成長」というストーリーテーマを載せ、周囲の関係性を膨らませ、かつ、男の子が女の子と「一緒に行きたい」から「一緒に生きたい」に目標を軌道修正すると、『神様はじめました』につながると思います。
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『星になる日』(鈴木ジュリエッタ、白泉社)は、『椿檻』が読みたくて購入しました。
その他のお話しも味わい深いです。
「和装男子」「人外」「桜」「人間の儚さ」など、後の「神様はじめました」のエッセンスに触れられます。
鈴木先生の描くチョイ悪男子は魅力的ですね。